がんについて
1.『がん』って、何?
人間の体は、約60兆個の細胞からできていて、この細胞が一定のルールで分裂を繰り返し、体の機能を維持しています。
ところが、何かの理由で細胞の遺伝子に異常が生じ、ルールを無視して際限なく分裂することがあります。
その結果できるしこりが「腫瘍(しゅよう)」です。
腫瘍のうち、成長が速く、体内のほかの場所に飛び火(転移)してしまうものを「悪性腫瘍」、つまり「がん」と呼んでいます。
「胃がん」「肺がん」「大腸がん」などといわれるように、がんは体のほとんどの臓器や組織にでき、100種類以上に分けています。
遺伝子異常の原因は、食品添加物、喫煙、脂肪や塩分の多い食事、紫外線、放射線などさまざまです。
国立がんセンターなどは「がん予防12カ条」として、▽バランスのとれた栄養▽変化のある食生活▽たばこは吸わない▽日光に当たりすぎない、などを呼びかけています。
2.突然『がん』ができるの?
がん細胞も、もとは正常な1個の細胞です。
細胞は自分のコピーを作りながら分裂、増殖していくのですが、コピーミスなどで遺伝子に変化が起きます。
それを数回繰り返すと「がん細胞」に変身していきます。
正常細胞が目に見えるがんになるまでには、約20年かかるといわれます。
がん細胞は急速に増えます。
27回分裂すると細胞の数は1億個を超え、腫瘍の大きさは約1センチ、約1グラム。
これが、現在の診断技術でようやく見つけられる大きさ(早期がん)です。
正常細胞には不要な増殖を自ら抑制する働きがありますが、がん細胞は抑制機能を失っています。
3.なぜ『がん』で死ぬの?
がんの特徴は「栄養と酸素がある限り、猛烈なスピードで際限なく増殖する」ことです。
放置すると、巣くった臓器の働きを妨害します。
大腸がんや胃がんなら、消化機能に不調が表れます。
もう一つの特徴として、がん細胞は血管やリンパ管を通って他の場所に転移し、そこで再び増殖します。
その過程で体の栄養分や酸素を大量に消費し、正常な細胞まで弱らせます。
こうして、人間が生きる上で必要な機能を低下させてしまい、結果的に死ぬことがあるのです。
4.治らないの?
必ずしも、不治の病ではありません。
がんを早く見つける方法や治療法が進歩し、治療成績は年々上昇しています。
よく使われるのは、治療開始から5年間生存した人の割合(5年生存率)ですが、「がんの統計01年版」(がん研究振興財団)によると、胃がんの男性では約73%。
早期がんの場合だと90%近くというデータもあります。
もちろん、がんの種類や発見のタイミング、その人の体力や免疫力などによって個人差があります。
「5年」を基準にする理由は、手術などでがんを取ったあと、転移したり、生き残ったがん細胞が再び勢いを盛り返す場合、5年以内に見つかることが多いためです。
5年たってがんが見つからなければ「完治」と判断されます。
5.遺伝するの?
「うちはがんの家系だ」などと言いますが、「親ががんなら、子どもも○%の確率でがんになる」というような明確な遺伝現象は確認されていません。
「がんになりやすい体質」と遺伝との関係については、研究が進められています。
がんの発症には、先天的要因と、後天的要因が絡み合っています。
後天的要因には、食事や喫煙などの生活習慣がありますが、それを共有する家族は、がんになるリスクも共有することになります。
先天的な遺伝子異常が原因(つまり遺伝する)というがんもあります。
子どもの目にできる「網膜芽(もうまくが)細胞腫」はその一つです。
また、大腸に多数のポリープができ、がんになる可能性が高い「家族性大腸ポリポーシス」は、がんになりやすい体質が遺伝していると言われます。
6.なぜ転移(再発)するの?
がん細胞は、鎖のようなものでお互いにくっつきあい、腫瘍を形作ります。
一方で、その塊の端の方からがん細胞が離れると、血液やリンパ液の流れに乗って移動します。
たどり着いた先で再び増殖を始め、腫瘍を作るのです(転移)。
これを繰り返すと全身に広がり、時には元の腫瘍より大きく成長することもあります。
7.『進行度』って、何?
がんと診断された時点での病巣の広がりを示す物差しです。
腫瘍の大きさ、周辺のリンパ節への転移の様子、他の臓器への転移の有無などによって、主治医が判断します。
0期から4期までの「ステージ(段階)」で表現されることが多く、その基準はがんの種類で異なります。
最も早期(軽い)は0期で、がんがその臓器の表面にとどまっており、他への転移も認められない段階です。
がんが最も進行しているのは4期で、がんが隣接の他臓器に到達したり、遠く離れた臓器への転移がみられたりします。
8.どんな治療法があるの?
◇手術(切除)
メスなどを使って、がん腫瘍の部分を物理的に取り除く方法です。
通常は腫瘍の周りの正常な部分まで切除します。
「進行がん」では腫瘍の近くのリンパ節まで切除します。
がん細胞を取り除くので、転移していない限り完全に治る可能性があります。
逆に、腫瘍を傷つけるとがん細胞が飛び散る恐れがあり、注意が必要です。
最近は内視鏡手術など、「なるべく小さく切除する」医療機関が増えました。
◇抗がん剤(化学療法)
薬でがんをたたく方法です。
直接飲んだり、点滴で体内に入れます。
血液を介して全身に行き渡るので、転移している(またはその心配がある)がんに効果があります。
一方で、がん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えるため、食欲がなくなったり髪の毛が抜けるなどの副作用が強く出ることがあります。
ただし治療が済むと症状は改善され、髪の毛も生えてきます。
効果も副作用も個人差があります。
がんの種類や進行度によって、種類や頻度は異なります。
手術後に、念のために使うこともあります。
がん細胞だけを狙い撃ちする「分子標的薬」が開発され、注目を集めています。
◇放射線
放射線を腫瘍がある部分に当ててがんを退治します。
放射線の、分裂中の細胞に影響するという性質を利用して、急速に増殖しているがん細胞を攻撃します。
治療中や終了直後に、疲れやすい、食欲がなくなる、貧血、などの副作用が出ることがあります。
最近は、腫瘍に直接届き、周囲の正常細胞へのダメージを減らす、より強力な重粒子線治療なども注目されています。
◇その他
このほか、白血病や悪性リンパ腫などの血液のがんには造血幹細胞の移植治療、自分の免疫力を強めてがんと闘わせる「免疫療法」、がんを攻撃する物質を作る遺伝子を体外から入れる「遺伝子治療」などがあります。
多方面から複数の治療法で挑む手法も模索されています。