がんの『告知』とがんとの『共存』
がんの告知
最近は、がんを告知することがふつうになりました。
これはインフォームドコンセント(説明と同意=患者が治療の内容や目的などについてよく説明を受け、同意した上で治療が行われること)、つまり「患者の最終決定権は患者自身にある」という考え方が医療の場に受け入れられた結果です。
医師と患者との関係は一方通行的なものでなく、同意に基づいた平等な人間関係であるという前提が基本です。
がんの治療法が進んで不治の病ではなくなったこと、患者さんが病気を理解して治療にあたった方が治療効果があがること、なども背景にあるようです。
インフォームドコンセントを支えるために、セカンドオピニオン(第二診断)、つまり患者が主治医以外の医師から現在の診断や治療について求める意見が重視されています。
自分ががんになったら約8割の人が告知されることを望んでいるのに、家族ががんになった場合に「本人に知らせる」と答える人はその半分、というアンケート結果もあります。
本人が望んでいても家族の意向で告知されなかったり、本人の望まぬ告知がされたりするケースのありうることがうかがえます。
がん告知に関して本人にアンケートをする病院も増えています。
病名、病状、余命。
どこまで詳しい告知を受けたいのか。
家族に伝えるのか。
家族が告知に反対した場合も告知を受けたいのか・・・。
時間がたって考えが変わることも考慮して2回たずねることにしているそうです。
告知は望ましいこととしても、その告知の状況やタイミングや、告知の仕方には十分配慮して伝える必要があります。
医師から機械的に告知されて心に痛手を負ったという話をよく耳にするようになりました。
突然、「あなたは末期のがんで、あと3ヶ月の命です」と告知されて動揺しない人はいないでしょう。
医師と患者は平等であるという考え方が育たなければ、インフォームドコンセントも形骸化してしまいます。
患者の立場からは、もし医師の言葉足らずを感じたら、「自分の身体は自分で守る」と考えて自分で勉強して補うことも必要かもしれません。
がんとの共存
がんは、日本人の死亡原因の筆頭です。
3人に1人は、がんが原因で亡くなっています。
かつては不治の病と恐れられ、苦しい闘病を強いられることが多く、治療の傷跡が深いケースも少なくありませんでした。
しかし近年、がんに対する意識が変わりつつあります。
その背景には、治療技術が進展して生存率が向上したこともありますが、がんに対する本質的な理解が広まりつつあることも要因と思われます。
「悪化させなければ必ずしも目の敵にする必要はない」という専門医も徐々に増えています。
がんと“共存”するという選択肢もある、ということです。
がんの診断や治療は、大きく様変わりしようとしています。
東京の国立がんセンターでは、新設した「がん予防・検診研究センター」で最新機器を駆使した検診を実施しています。
陽電子放射断層撮影装置(PET)やコンピューター断層撮影装置(CT)、内視鏡などを駆使して全身をくまなく調べます。
全国から希望者が集まり、検査は順番待ちの盛況です。
検診技術の進展で、がんかどうか判別しづらい1センチ以下の腫瘍(しゅよう)まで見つかるようになり、1080人の検診で32人にがんを発見(発見率2.96%、2004年2月~4月の3ヶ月における結果)しています。
通常のがん検診では平均0.1%にとどまるのに比べると、異常に高い発見率です。
その意味するところは、単に早期発見が可能になったということよりも、通常の検査では発見されない大勢の人が、自分ががんだと気づかずに健康そのもので生きているという現実です。
従来の考え方では、早期発見・早期治療が最重要課題でした。
したがって、気づかずにいると知らないうちに手遅れになるものと考えられてきました。
しかし、すべてのがんで一刻を争って治療する必要はないということがわかってきました。
悪性度の低いがんは、そのまま放っておいても問題はないのです。
逆に、悪性度の低いがんであるにもかかわらずその見極めをしないで切除に踏み切ると、患者は大きな肉体的・精神的負担を追うことになりかねません。
そうした背景からも、定期的な検診だけで様子を観察するという診断が実は適切な処置であることもめずらしくはなくなりました。
では、進行がんの場合はどうでしょうか。
進行がんでも、共存しながら生きることはできないのでしょうか。
そうした発想から、まだ研究の段階ですが、進行を食い止める「休眠療法」が現在試みられています。
抗がん剤を、がんの縮小ではなく維持を目的として投与し、副作用の少ない延命に効果を上げ始めています。
患者は、がんと共存する治療を受けながらならば、普通に生活を営むことができるかもしれません。
普通に生活できるなら、がんが身体の中にあってもかまわない-。
これからは、いかにがんと共存するかという視点も有効な選択肢のひとつになっていくと思われます。